【商人魂】


健脚なうちはよかったんだす。

何処でもひょいひょい

帳場でも正座が崩れるなんて無様なことはあらへんかった。



そのうち先の親旦那さんのこと笑われへんようになりまして。

仕入れも含めてな、

若い者に任せたらええんやけど。



「大番頭はん。風呂敷も背負いましょうか」

「――荷はお前はんが持っとるやろ。鶴之輔」

「無理させたらお父はんに叱られます。さ、私やったら大事ないだす」

「ええから前だけ見とれ。なんやったら老いぼれはほってってもええ」



これが松吉やったら「大番頭はんの前なんぞ歩けまへん」となるんや。

それがこの坊、誰に似よったんか、

「そうだすか! では」

云うてほんまに置いていきよった。

冗談やないで。


――やりおるな。


いやいや。云うたん私やから、しゃあおまへんわな。

ちょっと岩場で休むか。






「大番頭はん。大番頭はん!」

「……なんや松吉。ちゃんと背中丸めて、珍しいこともあるもんや」


松吉はこんな切れ長の目やったかいな。


「松吉ちゃいます。鶴之輔だす。さ、寝たらあきまへん」

「返事は『へえ』や。わかっとるやろな」

「へえ。さ、荷は宿に預けてますんでな。早う私の背中に」


日が暮れてきた。旦那さんが待っとるから、早う帰らんと。


「素直やな。それでええ。松吉。それでな、ええんや」

「鶴だす。鶴之輔だす。大番頭はん。しっかりしてくんなはれ」


松吉が泣きそうな声出しよった。

足だけでなく

今度は胸が痛い。


「私が。大坂一の商人にしたるからな」

「……へえ」

「松吉。まだまだやで」

「へえ。期待しとります。せやから首に掴まって」

よいしょ、と背負われ、膝だけではなく胸のつかえが取れた。



「期待しとるんは、私」



そしてようやく、

鶴之輔が誰かを思い出し

私は安堵で目をとじた。





「ええな。ちゃんとついてくるんやで」





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