【琥珀寒】
新町の遊女の覚えがいいとかで人気の琥珀寒。
井川屋の主人が番頭と行くかいかぬかと笑てるうちに、真帆家さんは大火で焼けてしまい――それどころではなくなりました。
「……で。糸寒天で羽振りがようなってきたから試そゆうわけですな。旦那さん」
「止めるんやないで善次郎。嫁も貰い損ねて店大きして、遊びも辛抱して膝だけ悪うした私に、あと残されたのは――」
「行ってもええだすけど、松吉はどうします。梅吉を嫁に出してから早いもので数年。筆もおろさせたってないでしょう」
「嫁と違う。養子だす。私がお銭出したる云うたのに、お前はんが止めたんやで」
善次郎は帳場で首を振った。
「今は事情がちゃいます。考えたらわかる話や。あの阿呆がこのまんま真帆家の嬢さんに操立てとったとして、女も知らんままでは先行きはない。惚れてることに気づいているかも怪しい」
「――お前はんの口から惚れたはれたを聞くとは思わなんだ。寄進もまだ済んどらんけど、ええんか」
「私が留守番してます」
「問題は銭やない。琥珀寒のほうや。私らが作っても偽の琥珀寒以上にはならんで」
和助の神妙な顔に、善次郎は溜め息を堪えた。
「……お里はんに」
「阿呆いいな。なんて言い訳するつもりや」
「松吉から真帆――おてつさんに頼んでもろて」
「惚れた女によその女への貢ぎ物こしらえさせてどないすんねん」
「嘉平はんも成仏できませんわな……」
客が来たため両者顔だけ慌てて取り繕ったが、こうなると内心はお通夜状態である。
客のほうも妙なものを感じて注文だけで退散した。
「生娘のぼぼというのは新枕では受けにくいもんや。善次郎」
「急になんだす?」
「新町は私とお前はんで行く。松吉と真帆さんの初夜はお前はんが行って介添えに――」
「……」
「すまんすまん。で、新町どないする?」
琥珀寒騒動。決着つかず。