【鶴之輔】


大坂に降る雪

積もる雪は珍しゅうて

あの朝は寒い

それはそれは寒い朝で。



焼けた天満宮を見たその日から

私らの間には暗黙の了解のように

己のものにはならねども

助けてくだすった神さんのために

恩返しする銀の重みがありまして



貸し付け先にゆく時も

頭を下げるその背中も

後ろでずっと見てたんで



杖を持って

天満宮に寄進に行くが

「ついてくるか」

と仰って。



何故あのとき

「一緒に」

と云わなかったのか

何故あの日に限って

私が店番せねばならん用事が出来たんか



後からあとから

悔いても悔いても



子供が

私を見て

泣きはらした目で

茫然として


――父上。


口だけ動かし

また目を游がせて。



「丁稚として引きとる」


嗚呼また始まったかと

主人の酔狂に何処まで付き合わされるのかと



あれが耐えて戻って

戻って育って

育てて育て上げて

ようやっと独り立ちして。



「お許しを頂きとうおます」



――また手放して。



「えらい勝手をしました」



戻ったらど偉いもん持って帰って。



「寄進が済んでから、思てます」



この阿呆。

阿呆二人に育てられたら

阿呆に磨きかけてしもた。





あのお侍の子

安かったけんど

手間もかかったから

トントンでっせ

旦那さん。






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