「えっ。夫婦になりたい?」
和助の前には善次郎とお里が並んで座っていた。二人共申し訳なさそうである。
「急な話やな。長い付き合いやから、もうないと思っとったわ」
「女衆ポイントを上げるのが早すぎましてな。土間で襲われまして」
善次郎の言い分にお里はプイとそっぽを向いた。「嘘ばっかり。旦さんの体力があるうちにって既成事実つくったのそっちやないの!」
「――何やて?」
「はあ。耳の穴虻に刺されて聴こえんのだすな。傍で云いまひょか」
「もう喧嘩しとんのかい……それで、仲は悪うないんやな。好いとるんやな?」
二人はもじもじとしだした。
「そりゃ、まあ」
「わて、出戻りやし。この人、独り身じゃ心配やし」
「何躊躇うことがあるんや。松吉の才覚ポイントも開花せんかったしな。井川屋は小さいままやけど――婚礼の日取りいつがええやろ」
和助の提案に番頭と女衆は慌てた。
「あきまへん、旦さん。そんなんあげんでもお許し頂ければ」
「それにわて、今さら子ができんことは明白――」
和助は二人の手を握りしめ、頭を振った。「そんなんはじめっから期待しとりまへん。二人で仲ような、店守ってくれたらええ」
「旦さん……」
「おおきに」
井川屋は当初の予定通り善次郎が継ぐこととなり、暖簾分けも寄進も儘ならなかったが、皆それなりに愉しく暮らしたそうな。
※番頭はんは尻に敷かれました。
めでたしめでたし
ニワトリ
。