「お咲。お入り」

　井川屋の暖簾をくぐって、松葉屋の孫、お咲がやってきた。

「うちも今日から井川屋の若女将だす。どうぞよしなに！」
「えっ！」

　奉公人たちは腰を抜かした。和助はにやりと笑った。

「わての気力体力が充分やったんでな。松葉屋はんに話つけて、お咲を貰うことにした」
「貰うて、犬猫やないんだっせ！」
「頭堅いこといいなや、善次郎。跡継ぎがのうなった松葉屋はん処には、松吉を養子に出しますんでな」

「ええっ」松吉は顔を上げた。

「そ、それやったら松吉がとうはんと婚礼をあげたら――」
「才覚ポイントが足らんかったんや。お咲も増えたし、食い扶持減らさな井川屋は潰れる」
「だ、旦さん……んな殺生な」
「あんさんら、来世はもうちょっと神信心すんのやで！」

　松吉は松葉屋の養子となり、井川屋の銀二貫は旦さんの婚礼費用に使われたそうな……。

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