年明け。井川屋に新しい嫁が来ることになった。
「真帆。奉公人に改めて挨拶な」
「へえ」
和助はにこにこと新妻を引き寄せた。その仲むつまじい姿に松吉の体はグラリと傾いだ。それを善次郎が支えた。
「だ、旦さん。これはどういうことだす?」
「どういうことも何も、善次郎。わての気力体力は充分。信心のおかげで売上上々。これで跡継ぎが出来れば井川屋は安泰やろ」
善次郎はしもた、と囁いた。
「松吉の才能が開花しきれんかった代わりに、旦さんが若返ってもうたんや……」
和助はにやりとほくそ笑んだ。「色事はな、年の功やで。悪う思わんといてな。松吉」
「銀二貫貯まったのにあんまりや。いとさん……」
「女の花は短いねんよ、松吉!」
和助はもともと商才に長けていたので井川屋は大きくなり、暖簾分けをしてもらえたので善次郎も松吉もそれなりに幸せな人生だったそうな。
めでたしめでたし
ハト
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