【寒天問屋】


エンディング04



「おおきに。毎度ありがとさんだす」

 年明けて三日。そこには乾物屋の大店、松葉屋の奉公人となった善次郎がいた。

「善次郎さん。もっとチャキチャキ働いてくれなんだら、困りまっせ!」
「へえ。ご寮さん」
「そうだす。わても赤子産まれたら手伝いにはこれまへんからな!」
「へえ。嬢さん」

 松葉屋の細君と孫のお咲にこきつかわれる善次郎の後ろ姿を見て、松葉屋の主人である藤三郎は嘆いた。

「これがあの鬼とまで呼ばれた井川屋の番頭。どないしてもうたんや。和助さん、えらい頭にキテはったみたいやけど」
「……これには深いわけがありまして。松葉屋の旦さんが拾てくださらんかったら、わては――アッ」
「イヤイヤ、そこはそれ。唾をつけといて正解やったとは思とんのやけど」

 松葉屋は善次郎をゴツゴツした肉体を着物の上からまさぐり、まあええかと云った。

「和助さんの体力気力もあった。番頭のツンデレ度も充分やった。ただし井川屋の売上と松吉の才能は開花しきれてへん。――でも実のところ、敗因はアレやろ」

 善次郎は松葉屋の胸に抱きついて泣き臥した。

「旦さんとわての間の溝が埋まらんかったんや! 信頼度をもっと上げるべきやったんや!」
「伏線の回収か。人生とは酷なもんやな――うんうん。わてが忘れさせたるからな」


※その後松葉屋のほうで銀二貫が貯まったそうな。

めでたしめでたし。

クジャク





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