「おおきに。毎度ありがとさんだす」
年明けて三日。そこには乾物屋の大店、松葉屋の奉公人となった善次郎がいた。
「善次郎さん。もっとチャキチャキ働いてくれなんだら、困りまっせ!」
「へえ。ご寮さん」
「そうだす。わても赤子産まれたら手伝いにはこれまへんからな!」
「へえ。嬢さん」
松葉屋の細君と孫のお咲にこきつかわれる善次郎の後ろ姿を見て、松葉屋の主人である藤三郎は嘆いた。
「これがあの鬼とまで呼ばれた井川屋の番頭。どないしてもうたんや。和助さん、えらい頭にキテはったみたいやけど」
「……これには深いわけがありまして。松葉屋の旦さんが拾てくださらんかったら、わては――アッ」
「イヤイヤ、そこはそれ。唾をつけといて正解やったとは思とんのやけど」
松葉屋は善次郎をゴツゴツした肉体を着物の上からまさぐり、まあええかと云った。
「和助さんの体力気力もあった。番頭のツンデレ度も充分やった。ただし井川屋の売上と松吉の才能は開花しきれてへん。――でも実のところ、敗因はアレやろ」
善次郎は松葉屋の胸に抱きついて泣き臥した。
「旦さんとわての間の溝が埋まらんかったんや! 信頼度をもっと上げるべきやったんや!」
「伏線の回収か。人生とは酷なもんやな――うんうん。わてが忘れさせたるからな」
※その後松葉屋のほうで銀二貫が貯まったそうな。
めでたしめでたし。
クジャク
。