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2024/07/31 

 花の種を持っていこうか、と言われてうなずいたが、急に不安になってしまう。召還された二人が離れてやっていけるものなのだろうか? 花籠に種を入れていくうちに、ふたりの時間を持つことは滅多にない自分たちが、一緒に旅に出てやっていけるのだろうかと冷静になった。
「ルフレ。やはり今回は……」
 中庭のいつもの場所は穴場ではあったが子供たちがよく来るため、花畑の際にある森でときどき時間を過ごすようになっていた。他愛ない話をしたり、本の貸し借りをしながら、持ってきた軽食を口にしたりする程度だ。どちらも互いの生活に干渉することなく、なぜか共にいて疲れることがほとんどない。
 実は、一番言い争いの多いルフレとセネリオは普段着の自分たちだ。まとまりに欠けているどころか、譲り合うことがない。放っておくと延々と喧嘩しているので、犬も食わない参謀の論議と影で呼ばれている。
 セネリオにとっては、どのルフレがどのセネリオとどうなっているのかについて、あまり興味がなかった。これまで自分が想いを寄せるルフレは一人だけだったし、理由もよくわからず考えないように努めていたからだ。
 花祭りのルフレの隣には当たり前のように花祭りのクロムがいた。花祭りは通称で愛の祭りだから二人はそういうことなのだろう、と勝手に解釈をして目に入れないようにしてきた。知らない異世界の住民だ。もともと自分には関係のない二人なのだから、と。

 はじめて口づけているルフレとセネリオを見たのは、いつのことだったろうか。

 セネリオの部屋が少し開いていて、注意を促そうとしたときだった。長々とふたりの姿は離れず、ルフレが積極的にセネリオを追いかけて、次第にそれを受け入れるように腰に腕が回されてた。脚を割って入る膝の動きでカーテンが揺れ、しなだれかかった自分の顔を見て、扉の隙間からようやく視線をはずし、しばらくしてわからないようにそっと閉めておいた。
 あんなにも気が合わないのに、なぜ一緒に……と不思議に思ったことは何度かある。普段着の自分たちは、ふたり旅の任務になると必ず共に行く。どれだけ喧嘩をしていようと、その席を他の誰かに譲るのを見たことがない。
 いとおしく想った人間に抱かれれば、自分でもあんな顔をするのだな、と思った。普段の喧嘩でさえ、詮索を受けないように周囲を牽制している可能性もある。
 別の誰かと一緒になることさえ想像できない自分に、ルフレの存在は妙に大きく感じられた。
「……セネリオ。どうかしたのかい」
 やはり自分のそれも気のせいではなかったのだ。ときどき言葉が出ないほどになって、その手を取り聖王から引き離し、こちらを向いてほしいと頼みたくなることがあった。
 気のせいなどでは、なかった。しかし気持ちが通じて、相手もそうだと知って尚、不安は大きくなるばかりだった。
「クロムのことを気にしてるのか。彼ならいつも一緒だから、少しくらい離れても……」
「半身は共にあるべきです。僕とアイクは別々に召還されたので問題ありませんが」そもそも一緒にいる成り立ちと考えが周囲に誤解されている、と何度も言ってきた。しかし自分の見た目からか疑惑が晴れることはない。「クロムとあなたは……離れてほしくないと願う者も多いでしょう」
「なんだいそれ」ルフレはセネリオの手を握りしめた。「仮にそんな狭量なことを外から言われても、互いの理解を越えた要求を受け入れる気はないよ。彼以外に対して愛を誓う資格はないっていうの」
「……」
「それとも、君こそやっぱり……僕といるのは間違いだって……」
 そう思えたら、どんなに楽なことだったろう。恋というのは時として理性的な判断のすべてを狂わせ、その人物の芯となる根っこの部分から変えてしまう。
 セネリオには知らなくていいはずのことだった。暗い表情をして離れようとした指を自分から追い求め、せつなげに歪められた優しい瞳の奥に自分を映し。その世界が明日どうなろうとどこにあろうと今だけは、熱くなった胸を抱えて。

 ただ飛び込みたい相手がいる時間など。

「セネ……リ」
「間違いであっても、確かめるすべがないですから」
 だから、怖いのだ。共に逢っている時間の数が増えてしまえば、終わりを鳴らす鐘の音が聴きたくなくなる。それは必ず鳴るのだろう。明日か明後日かわからない。異界を開いて閉じることをやめた国の者たちのように、あるいは強制的に元の世界で生きていくことを強いられるまで。
 終わるときは一人だろうか。誰かと共にあっても忘れるのだろうか。セネリオもルフレも、ここで出逢った自分たちのことさえも。




「一緒に、いてください」





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