管理人サイト総合まとめ

site data


2024/06/18 

 森林の奥深くで鳥が鳴いている。涼やかな音色に聞き耳を立てていると、「テントは張り終えたよ。収穫はあったかい?」とルフレが聞いてきた。渓流に合わせて隣に挿しておいた釣竿を見やる。
「まだです」
「――セネリオ。ひょっとしなくても本ばかり読んでたろ」
「あいにく、糸が引くのを眺めてぼーっとしているのは性に合わないので」
「川釣りをしたことがないのか……貸して」
 竿を持ち上げて「その辺の木でいいとは言ったが、これはしなりがイマイチだよ」と言いながら、セネリオが選んだものより細手の木の棒を取ってくる。丁寧に糸を外して巻き直すと、餌として吊るしていたカワニナを持ち上げて「これはホタルの餌だね。たくさんいるってことは期待できるぞ。夜が楽しみだ」とそれを捨ててしまい、岩肌を探り始めた。セネリオは少し興味をそそられて、本を閉じるとしゃがみこんだルフレの脇に立った。黒い田螺をいくつか拾うと、靴の際で軽く潰す。割れた貝殻の間から針の先を中身に通して、「うん。これでよし」と川に向き直った。
「まず、川の深さと流れを見た方がいい。海と違って人間の姿もまともに川底に映るから、魚が逃げてしまうんだ。太陽の位置があそこだから……」
「あの木陰はどうでしょう?」
「さすがだね。最初から日陰になってたら僕らの姿が消える。移動しようか」
 連れ立って歩いていると、川のせせらぎが爛れ落ちるように集まっている一角に水鳥が見えて指差す。「ああいうところを狙ってもいいね。まあ釣れるときは釣れるし、駄目なときは何やっても駄目だけど」
「自警団では」セネリオは片手に持った本と荷物を握りしめて、静かにいった。「釣りはほとんどしませんでした。アイクは狩りが得意でしたし」
「君は食料調達はしなかったの?」
「毒のある茸を見分けたり、薬草を取ったりするほうが性に合っていたので」
「よし。じゃあ腕の見せ所かな。君は茸狩りを頼む。張り切っていこう」
「……たくさん採っても、食べる量は限られます。ほどほどにしましょう」
 釣りはルフレに任せることにして、山肌に添って得意な仕事を担当していると。旅のはじまりを思い出して、セネリオの記憶は少し漂った。


 二人きりで旅に出ることになった経緯はともかく、相手が問題だった。その時エクラに召喚されているルフレの人数はその場の五人だったが、誰がその座を譲るかで揉めたのだ。セネリオにしてみれば誰であってもルフレはルフレだったため、「決まりそうにないならアイクと行きます」とため息を吐いた。
「二人旅っていったら新婚旅行も同然だろ」白い花婿スーツに身を包んだルフレは言った。「僕には馬もあるからね。セネリオを歩かせるような真似はさせなくて済むよ?」
「そんな真っ白な服で山を越えるってのかい。虫けらに相応しい呆れた言い種だね」邪竜の支配にその身を明け渡しながらも偉そうにしているルフレが言った。「僕なら邪魔な獲物は全部薙ぎはらってあげるよ。アイクもまとめて始末してやってもいい」
「君、自信満々なわりには足が遅すぎるよね」陽気なクリスマス衣装に身を包んだルフレが言った。「足が速い上に追撃が取られにくい。もちろん僕で決まりさ」
「聖王つきでお得だよ」花祭り衣装で肩を組んだ半身つきルフレが言った。「え、攻撃する度にいちゃつくのを見せられる苦行だって? ちょっとクロム、やっぱり距離感おかしいって絶対! 夫婦でも兄弟でも節操あるのに、君ときたら……」
「――どなたも結構です。誰かと二人きりで過ごすこと自体が僕には向いていない。仕事をこなせれば問題ないのですから、一人で行ってきます」
「セネリオ、待って」セネリオの袖を引いた子供のルフレが言った。「……僕じゃだめかな? 君の足手まといにはならないから」
「……」
 子供をむやみやたらに邪険にできない性質を突かれ、セネリオは迷った。その間にも他の四人は勝手に言い争いを始めている。子供のルフレは悲しそうに下を向き、「やっぱり、僕よりアイクがいい?」とぽつりと呟いた。
「――そういうことではありません」
「セネリオの嘘つき。アイクがいいんだろ」
 握りしめた袖を離さず、子供のルフレが涙ぐむのに息を詰める。ふと視線をあげると、残りの四人もなんとも言いづらい顔で二人を見つめていた。
「……仕方ないなあ。今回だけだぞ! セネリオ、連れてってやってくれよ」
「勝手に決めないでください」
「子供時代なんて母親と逃げ惑った記憶しかないからな。譲ってやってもいい」
「プレゼントにはちょうどいいかもね。誰からも貰ったことないし?」
「――」腰の辺りにぎゅうっと抱きついてくる小さな生き物に手をかけると、期待に満ちた眼差しがまっすぐに自分を見つめてくる。誰であってもそこだけは変わらず、セネリオにとってのルフレであった。ため息を押し殺して、服を掴んだ小さな手を握って言った。「準備が済んだら、呼んでください」



「子供の自分を使うなんて、卑怯な手口でくるとは思いませんでした」
 パチリと弾けた薪の傍らで、セネリオは言った。同じ英雄衣装に身を包みながら、巡業向きではない互いの姿を目にとめる。日も落ちきった森の中では、微かに虫の声と木々のざわめきが聴こえるばかりだった。
「複数名の僕自身を上回る戦略を練るには、何か別の手だてが必要だと考えていたのは事実だ」火の加減を棒でつつきながら、ルフレは言った。「しかし二人旅の提案は子供の僕からだったよ。幼い君と二人きりで遊びにいきたいと切実に言うから、お互いに協力しあうことにしたのさ」
「幼いころの僕は愛想が悪いでしょう。子供のあなたとは年が離れているし、遊びには向いていない」
「そっちじゃない。一言も口を利けないほうの君だ」
「――彼とは旅には出られないはずだ」
 ルフレはふふ、と笑いを噛み殺して言った。「遊ぶことはできるだろ。一緒の時間をつくってあげる代わりに、自分にも何かできないかと考えてくれたんだよ。僕も旅に出る直前まで知らなかった。騙し討ちになってしまったことは悪かったね。本当は君とアイクを行かせたかったんだ」
「……」
「本当だよ。僕は君が望むことはなんでも叶えてやりたい。自分でも馬鹿みたいだと思うけどね。ただ資金力がなかった……アイクのカードを課金以外で引くのはなぜあんなに大変なんだろうね? 僕とクロムは山ほど引けるのに」
「ルフレ」
 顔をあげると魔道士の姿は間近にあって、ルフレは飛び退いた。「……っ! びっくりした……君、ときどき気配が――」
 横座りに頬に手をやり己のほうを向かせると、互いの言葉も吸いとられた。見開いた目を閉じさせるように、瞼に唇を落とす。名前を口にしかけた低い声を遮るように、腕を絡めた。意志を汲み取ってなお迷っている指先に爪を這わすと、浅い口づけに音が加わる。膝立ちで始めた情事のさえずりが、荒い息と共に湿った声に変わるのはそう遠くなかった。
「本当に……僕でよかったのか」
「どちらの意味です」
「――花婿の僕とか、陽気で楽しいよ」
「四方八方に愛想を振り撒いているあなたは見たくありません。他をあたってください」
「よく言うよ。本音は一人にしか心を開いてくれそうもないのに、君ってやつは……」
 僕に言わせたいんですか、と互いの襟元にかけた指を握ると、セネリオは微かに微笑んだ。
「今夜一緒にいるのが、あなたでよかった。あなたが、よかったんです――ルフレ」



 奥がいい、と普段はしない望みを口にすると、徐々に繋がりを深めていた肉体が躊躇うように離れ、セネリオはルフレの服を掴んだ。
 そういえばこれは聖王から得た特別な衣装だったな、と思うと同時に腹が立ってくる。所有している証のようにルフレの肩を抱いた花祭り衣装のクロムが、勝ち誇ったように笑っているのを思い出してうめいた。外気に肌を晒すと風邪を引くからという提案をしたことが恨めしい。
「もっと? これ以上は――」
「ルフレ、」それを口にするのは酷く勇気がいった。「早く……ッ」
「う、うん。締めつけないでくれ。わかったから」
 いつもと変わらない優しげな口調で、望みを聞いてくる。余裕がないのは自分だけかと暗闇で盗み見ると、短く息を吐きながら汗の飛沫を散らした頬が目についた。じっと見つめていると微かに笑って、「愛してるよ」と他愛もなく呟いてくる。そう気楽に囁かれてはありがたみが、と抗議の理屈を並べようとしたが、白くなる頭の中で言葉はたちどころに消えた。
「ルフ、ルフレ……!」
「う……、ん。ここだね」
「いい……ッ、そこ」ゆっくりと嘗めるように深まる繋がりに喘いだ。「もっと……欲しい。今日は、存分に。好きなだけ」
「うん」
「ルフレ」唇にこもった熱で、涙が溢れる。何かうまい表現のひとつも簡素なもくろみもすべて。消えてしまう。
「セネリオ……」
「やさしく、しないで」どんなにいざなっても触ってはもらえない手のひらを、掴んだまま離さない。「全部、いれて」
「――」
「もっと。奥まで」
 貴方を感じたい、と。口にしたわけではないのに、全身で探られると時間もなにもかも飛んでしまう。丹念に暴かれる秘することほぎに気をやって、何度か逝ったに違いない。それでも加減しようとする指を口に含むと、繰り返される律動で言葉もなく果てた。
「……っ、あ」
「セネリオ……セネリオ!」
「や、だ。もっと」
「無茶いうなよ、っ……ああ、」
「ルフレ。まだ、ほしい。足りない」
「ああ! ……ッ!」
「ずっと、離さないでください」
「セネリオ……」苦しそうにしながら、堪え忍んでいるその姿がいとおしかった。「駄目だ。悔しいけど。一度」
「いいですよ」
 全部出してください、と頭を抱えると、迸りはすべて奥深く受けとめた。荒く息を吐く唇を塞ぎ、呻くまなじりで視線を絡めとる。
「すまない」
「いいと言ったんです。でも、まだ」
 意を組んで繋がったまま横抱きにされていた。設営した天幕の間から、星の影と蛍の明かりがちらちらと映る。いつもなら少しずつ収まっていく熱が留まったままで硬さを増すのに合わせ、漏れる喘ぎに背中をそらす。
「……ルフレ」吐息を吐くと、首筋に当てられた唇が蠢いた。「もう少し、乱暴にできませんか」
「セネリオ――」
「お願いします」
「いやだ。傷つけたくない」
「だって」飲み込んだ言葉に、次の勇気が出せない。「このままじゃ、気が変になる」
「――」
「本当は、毎日だっていいんだ。あなたが訪ねてくる日を気づけば待ってる。知っていましたか」
「愛してる」
「ねえ、知って」荒くなる息が吸い込まれる。「僕は、本当に……嘘じゃない。あなたのことを」
「セネリオ。次はどうしたい」
 いっぱい、と口にできたら。
「いれて。もう一度」
「うん――次は」
「後ろから。……ん、あぁッ」
「服を着たままこういう風にすると、ちょっと。無理やりしてるみたいで」
 すごく、興奮するよ。と……自分から動きたくなって、つい息を整えてしまう。耳元にかかる息の熱さに、逸る気を抑えてゆっくり腰を動かした。
「セネ、リオ……」
「いい。気持ち、いいから……っ。そのまま」
「どうしたんだい。今日、すごい。中も熱いし」
「ぁ、っ!」
「駄目だよ。そんなに急ぐと、また」
「堪えて、ください。動きたい……ッ」
 そんなに僕がほしいのか、と囁く声に手を繋ぐ。後ろ抱きのまま胸に導くと、どちらの動きでそうしているのか次第にわからなくなった。
「あ、あ……」
「いいよ。いって」
「やだ、いや……、まだ!」
「気持ちいいってとこ、みせて」
「も。もっと、激しく」
「ゆっくりのほうがいいだろ。乱れてる」
「っ……! もどかしい……ッ」
「ああ。本当にほしいんだ」
「ずっと、そう。いってる」セネリオは赤らんだ顔を背けて、腕の下でいった。「ほしい。ルフレ、ルフレ……!」
「言わなくても、いいんだよ。君も堪えて」
「いゃ、ああ、……! ……ッ!」
「君は可愛い」
 撫でつける指の動きを追っていると、薄く開いた唇で繰り返す。可愛いよ、という声にカッとなると、怒らないでと少し笑った。
「本当に……可愛いよ」
「あ」
「前からじゃ、いやかな? いくとこ、みたい――」
「……一緒、なら」
「いいの?」
「視線をはずしたら、承知しませんから」
 うん、といったきり、いつまでも動かず髪を撫でている。指を捉えて口づけると、くすくすと笑ってそれをいった。「いつでも見ていたい。でも、そうすると君は怒るだろう」
「……そんな、ことは」
「今夜みたいに、たまにでいいから。僕に甘えてほしいんだ。駄目かな」
「ルフレ……」
「うん?」
「そうはできない相手がいるということを、あなたで知ったんです」
「――」
「僕は、もう。あなたしか」
「譫言で言ったことじゃ嫌なんだ」ルフレはきっぱりといった。「セネリオ」
「ルフレ。あなたを心から――愛しています」
「ああ」
「離れないでください。僕の傍から」
 くちづけた端から、喪うことを考えている。その指が、脚が、声が遠のくまで抱き寄せると、静かに絶ち消えた感情が、その身に堕ちて互いを包むのを見守っていた。

「一緒にいよう」





 お使いの道具類を買い揃えて街を後にしようとすると、セネリオ、とルフレが手を振ってくるのが見えた。「今夜、星祭りがあるそうだから。もう一晩泊まっていかないか」
「路銀は残っているので構いませんが……衣装の替えを持っていません。汚れは魔力でなんとでもなりますが、あなたが聖王から賜った衣装を着続けているのは正直気に入らない」
「今度お揃いの衣装でも発注しようか? 死の国ヘルの布地とか夜道で発光するらしいよ」
「僕は結構です。あそこで買いましょう」
 店を数件回るが、しっくり来るサイズのものもデザインもなかった。着るものにこだわりの無いはずのセネリオが次々とあれこれ試着させてくる服に、ルフレはヘトヘトになって降参した。
「何を着せても僕はそんなに変わらないよ。もう少し見映えのする容姿に生まれてくるんだった……」
「どれも似合っていましたが」セネリオは顎に手を当て、首を傾げた。「しっくりきませんね。本当はいつもの衣装のあなたが好きなんです」
「――その僕はいつもの君と旅行してるんだ。英雄衣装、そんなに駄目かい。君がクロムについて噛みつくのは珍しいから、気づかなかったけど。ひょっとして妬いてる?」
「あれにしましょう」
 簡易な浴衣に目をやると、セネリオ手ずから上着を脱がせて羽織らせる。帯を腰に巻こうと伸ばしてくる腕を遮って、ルフレは天幕をシャッと引いた。
「誰が見てるかわからないだろ……二人旅の総勢人数、すごいんだぞ」
「僕はあなたといるところを見られても、別に構いませんが」
「――」
「本当は、僕から誘うつもりでした。ただ今回はあなたのカードのほうが数が多いことを失念していて……どうかしましたか?」
「君って、そういうの計算してやってるの」
「どういう、……ッ……!」結んだ帯から離した手を引かれ、なだれ込むように唇が合わさる。思考を巡らそうとする頭を逃げられないように掴まれた。優しい仕草で今度はセネリオの服を脱がそうとしてくるため、さすがにそれは、と身を離す。「ルフレ……」
「いや。君の着物姿も見てみたいから。白夜王国の輸入ものらしいけど、色はこれでいい?」
「――なんでも、構いません」
「ちょっと派手かなあ……僕が紫なら若草色が好みなんだけど。君ってそういえば、緑の衣装が多いね」
 するするとほどかれる布の触りに声をあげると、わかっているのかいないのか指が肌の表層をさすらう。昨夜の蛮行を思い出して抗議の声を上げて腰を引くと、それを赦さない腕がしっかりとセネリオを引き寄せた。
「ああ」ルフレはゆっくりとその場にしゃがみこみ、セネリオを見上げた。「ちょっとだけ、手伝ってあげるから。後で僕が君に着せたい服も、一緒に楽しんでおくれよ」
 

 浴衣のおまけについてきた扇子を魔力で振るうと、思いのほか強い風が辺りを待った。「これはーー悪くないですね」
「キャンディとか門松とか振るってる君よりは見映えがするけど、やっぱり浴衣は駄目だ。他のやつに見せたくない。上からこれを羽織って」
 肩にかけられた上着の重さに目をやると、見覚えのある衣装である。「これは、あなたの……」
「いつものやつがいいって言うから。どうせその辺を歩いてるんだろうなと思って、セネリオといちゃついてる普段着の僕から引っぺがしてきたんだ」
「――」
「本当は僕であっても他の男の服を着せるのは嫌だけどね。英雄衣装は嫌なんだろ」
「着ているあなた自身は……嫌いではありません」
「――君は何を着ても似合ってる」
 ぱっと握られた手と共に上着に押し込まれ、人目を気にせず連れ立って歩くことの恥ずかしさを押し隠した。そのうち人の通りが激しくなり、揉みくちゃにされると互いの距離を忘れる。宿屋を取ってあるけど、壁越しの声は筒抜けだからというルフレの声につい笑ってしまう。
「ひどいな……君はさっきので楽になったろうけど、僕は……」
「すみません。後で場所を移しましょう。僕たちはどこにいたんです?」
「聞かないほうがいい。違う場所にしよう」
 上着を脱ぐ状況下を想像して片手で額を押さえる。脇を向いた鎖骨の辺りを引っかく指に、顔を背けると「……綺麗だ」とそれだけ言った。
 星祭りの見せ場である花火がひとつ打ち上がる。遅れた音と光の速さに合わせて、流星群がキラリと輝いた。
「ああ……」
「花火が邪魔をしてますね」
「少しね。でも、ほら。君の黒髪も光に染まるほど輝いてる」
「……無理をしなくていいんですよ。口説き文句は得意ではないでしょう」
 あなたは他のルフレより真面目だから、とつぶやけば、他が不真面目すぎるんだよ、と返る。
 続けて打ち上がる音と星の滝に飲まれながら、上着の中でつないだ両手を離さない。肩を寄せあって同じ空を見上げていると、そこだけ切り取った絵画のように、ふたりの姿はひとつの影となって合わさった。



「君だったのか……僕の上着を勝手に持ち出したのは」
 たまには元の姿に戻りたかった? といつもの自分が聞いてくる。耳を寄せて事の顛末をさわりだけ話すと、「えっ……ずるいな。浴衣って白夜王国のあれかい? セネリオ相手にどうやって着せたんだ」と身を乗り出してくる。
「着せられたのが先だよ」
「――君だけちょっと、僕らの中では落ち着きもあって大人っぽいからな。警戒心がゆるむのか」
 いいなあ……と心底羨ましそうにしている肩に、上着を着せてやる。ずるいずるいと声を上げているのは彼だけではなく、置いてけぼりをくらったルフレ全員が抗議していた。「子供の僕を使うなんて!」「灰にしてやる」「クロム。悪いけど明日から別々に暮らそう」と口々に叫んでいる。
 旅の終わりに買ってきた魔道書を子供である自分たちにあげると、心底喜んで嬉しそうなルフレと、ものも言わずに胸に抱えた本を抱きしめるセネリオが同時にこちらを見上げた。
「――ルフレ。次も、必ず」


 声に振り返ると、愛しいひとの姿形は逆光を浴びて、どのような顔でそれを口にしたか知ることはかなわなかった。







×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -