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月並みのラブソング番外13




 やめてくれ、と言った。





 周囲を舐めほどく舌が、初めて嗅ぐだろう他人の場所で出たり入ったりを繰り返す。

 口で陰茎を犯されることより、ずっと堪え難いことだった。逃げる俺の腰をしっかりと押さえ、前を扱いた。俺は抵抗する力を剥ぎ取られ、溢れる涙をシーツに擦りつけた。


「やめて」


 快感に身もだえして、意識とは逆に腰が揺れてしまう。

 あんたが汚れてしまう。


「織田切さん、やめてくれ」


 悲痛な刺激だった。舌先で突かれるとぞくぞくした。高く持ち上げられて、前のめりになると睾丸の裏まで触れる。

 限界だった。





「頼む。やめろ!」





 誠司さん、と言った。

 動きが止まらない。いつもなら、俺の嫌がることはしないのに。シーツを引っ張って堪えた。追い詰める指を自分の右手で掴む。

 俺がやると言ったら、達しかけていた場所から力が抜け、握らせた。指輪がと言うのも構わず、手が上から重ねられた。


「全部出せ」


 加減も考えずに激しく上下する。皮膚の痛みと熱さで目の前が真っ赤になった。出ない。

 尻を振ったつもりはないのに、別の指がまた中に挿入る。容赦せず上から扱く方と反比例して、ゆっくりと。


「ひ……ぁ!」


 久しぶりの他人の感覚に、内部が焼けそうだった。自然に穴が締まる。蕩け始めると早い。伸縮しだした。

 壁を引っ掻くように、指が別々に動いた。先走る前が感覚を無くして、弾ける寸前で乞う。


「すき。好きだって」


 言ってくれ。

 それでも返事はなかった。荒い息に振り返ろうとすると、下半身を振って四つん這いの淫乱な猫を、全身で押し潰した。

 もう挿れてと言いたい。熱を持った異物は、濡れている俺の脚の間で存在感を増している。

 嫌じゃないなら。気持ち悪くないなら。先を当てるだけでいいから。


「ア、ああッ。ン……ッ!」


 抑制してなるべく出さずにいた声が出る。一度漏らしたら止まらなかった。

 喘ぎで萎えるんじゃないかと恐怖していた男のモノはさらに怒張して、腹の中に納めたわけでもないのにドクドクと脈打つのが感じられた。


「あ!ア。ああ、あ!」


 探り当てた場所をぐっと圧されると、後ろの快さは前の比ではない。

 顎を大きく反らした。月が見えたのは一瞬だ。目をつぶると耳元で低い声が言った。





 ――――愛してる。





 嘘だ。ナカで言えよ。

 全部嘘だと思えるんだから。夢にうなされて、紅茶にでも酔っただけだと思えるから。


「あ……あ……っ!」


 後ろの指が曲がった途端、溜まったものを勢いよく吐き出した。握っていた手は離れ、俺ひとつの手になった。

 強い力で腕の中に抱きこまれる。内部に深くまで挿入りこんだ指のせいで、節くれだった関節の形まで感じた。

 座り込んでも、尻を落ちつかせられない。力は抜ける一方なのに、天に突き出すようにして残滓の溢れるものが奮える。



 見ないでくれ。今夜は見ないで。

 綺麗な月を俺が汚すんだ。



「離さない」
「あ……」
「逃げようとしても、逃がさない」


 左の指で相手の頭を探った。男の指は中をずっと弄っている。一度萎えた俺のモノを押し上げるように、硬い側面が当たっていた。

 まだ出るだろうと絞り取る。俺ばっかり、いつも俺ばかり、となじった。

 早くと口走る前に、男の口から信じられない言葉が漏れた。



 ――――アリスの名前だった。



「……っ!なんで今」



 下の名前は俺も知らない。

 この人が目をかけている部下。

 俺の代わりに、そばにいられる人間。



「なぜあの男に構っていたんだ」
「いま、……やッ」


 嗜虐的な真似に憤って、それでも体は新たな愛戯を貪っていく。

 こんな抱き方をする人だったか?俺の言うとおりに、男の抱き方を覚えていったんじゃなかったか?


 直接的な愛撫。

 強弱のつけ方。

 多少飲んでも腹を壊さないための薬。


 咳込むのがわかってるからから口づけて吐き出させて。


 今夜はまるで――――まるで、俺に怒ってるみたいじゃないか。


「黙って、して」
「答えたら、君がそうして欲しいことを全てしてやる」


 先端を後ろから優しく撫でていた指が、頭を擡げるのに合わせて絞める。アナルに突き立てられた指が増えて、唇を噛んだ。


「ぅ――――ア、あ」
「波多野。言うんだ」


 さあと促す声に。

 俺は。



 ――――おい、アンタまた。



 カウンターに突っ伏すあいつを見た。グラスを傾ける後ろ姿。暗がりで俯く顔。

 現実に疲れて。綺麗な、男もなにも知らない。健全な。


「………ッ!ア、ああっ!」


 俺が目差したような。そんな男を。



 ――――悪ィ。姫さんと間違えた。



 あいつのことを。










「あいつのことを、アンタだと思ったんだ」












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