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山肌を登りながら、ドイルは息をついた。捜索隊から一人離れたのは、どうしてもあのホームズという男の素性が気になるからだった。
ドイルは後悔していた。赤ん坊のことだけではない。上の二人の子供たちの話だ。
確かにデニスは待望の赤ん坊だった。しかし周囲の反対を押しきって結婚できたのは、死んだ前妻との最後に得た時間が大きいのである。
トゥーイは病状が脳に達するまで、ドイルと自分の妹に始終詫びていた。まだ若い彼らの人生を、自分が奪っているのではないかと。
それは愚かな考えにすぎない、とドイルは一笑した。
「でもね、アーサー。言っておかなくてはならないの」トゥーイは繰り返した。「この病はね、治るものではありませんからね。私にはよくわかっているの。他でもない、私自身のことですよ。貴方や子供たちに希望を持たせるようなことは、私にはできないわ」
馬鹿を言うんじゃない、とドイルはトゥーイの手を握りしめた。夫婦は一度も言い争いをしたことがなく、妻はこれ以上は望めないほど素晴らしい女性だった。
「子供たちにはね。よくいい聞かせていますから。もし。もし、私の他に、貴方に好きな人ができたら」
「――そのような人はいない。君の他には」
それは本心だった。入院させようとしていたトゥーイの弟がドイルの医院で亡くなり、二人は結婚した。医師と患者の親戚という形で、同情したのかと周りから問われたこともある。しかしお互いが惹かれていた。そのことに嘘はなかった。
きっかけはなんであれ、半世紀といういう長い間を共に過ごしてきたのだ。細い手首と、十数年のうちに見る陰もなくなった体を目の前にして、ドイルは嗚咽を漏らしかけた。
「貴方は一人で生きていってはいけないわ――子供たちのためにも」
滝を目の前にすると、トゥーイの微笑みは消えた。
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