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ドイルの妻ジーンは、ドイル家を訪れていた。いさかいのあった姑も、結婚後に孫ができると態度は緩み、彼女を呼びつけたのだ。
「御養母さま! いけませんわ、これ以上の召喚は無茶です」
ドイルの母は床に魔方陣を描きながら応えた。「このチョークはね、いわくつきなのよ。アーサーがビリヤードをしているときに、こっそり他のものと入れ換えられてしまったの。キューを弄っているとチョークの中から、紙が出てきた。中からは――」
「借金返せ、の文字が。ええ、存じています。あの人は面白がっているけれど、内心では落胆してるんですのよ」
「シャーロックが存在すれば違う人生があったかもしれないわね」
ジーンははっと息をのんだ。ドイルの母親は無表情だった。
「そうは思いません。たとえそうだとしても、あの人の何が変わると言うんでしょう」ジーンはスカートの端を握った。「考えなおしてください。名声も富も、今の私たちには毒になりかねませんわ」
もっとも優れている母親の代表のような女性に、その意見を申し述べることは勇気がいった。
しかしドイル家の立派な主は振り返った。「何か誤解があるようね、ジーン。わたくしにはまだたくさんの娘たちと、可愛い息子が一人いるのよ。アーサー以外にもね」
「だったら、なぜ……」
「コツが掴めてきたわ。離れていらっしゃい」グランマは魔方陣の中央で両手をあげた。「出でよ、ジェームズ……!」
手をおろして首をかしげた。「ジョンだったかしら。貴女ワトソン博士の名前、覚えてらっしゃる?」
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