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 ワトソンには今の会話の何がまがまがしいのか想像もできなかったが、ホームズは眉根を寄せて「なるほど」と腕を組んだ。

「事態の深刻さがようやくはっきりと見えてきた」

「そんなことより息子の行方探しが先です。私はとりあえず近くを……」ドイルは宿屋から駆けてきたキングズリーの元に行った。

「ワトソン君。私たちはライヘンバッハへ直行だ。山の頂上までどのくらいある?」

「登ったことなどないから知らないに決まっているだろう。この状況下で山登りなど、君は正気なのか。デニスがあそこまで飛んでいったとでもいうのか!」

 ワトソンの声は切迫していたが、ホームズはドイル親子を尻目に宿屋に入った。

「我々は捜索隊をつくることに決めました。町の中でも応援を呼んでくれるそうです」ドイルはいった。「どうされますか」

 ワトソンは迷った。常識的に考えれば、ドイルに着いていくのが正しいのだ。しかし彼の隣では、息子の一人がまっすぐワトソンを見ていった。

「――博士、貴方はシャーロックについていくべきです」

 ホームズがワトソンの名前を呼んだ。すでに当初の遠慮はなくなっている。ワトソンは本で見た自分と同じ名前を思い出した。そして怪訝そうなドイルの腕を掴んだ。

「ドイル君。デニスを最初に独りにしたのは、私なのだ。本当にすまない。私はホームズと共にいくよ」

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