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「ダディ――」

 子供たちの反応も同じだった。彼らは父親の顔を確かめた。間違いなくドイルである。

 ドイルはホームズに泣きついている娘を見ると、顔を真っ赤にした。

「うちの娘に……何をしたのだ……!」

「誤解だ。まだなにもしてない」ホームズは淡々といった。「いきなりわいて出てきて、その発言にはさすがの私も」

「今までどうしてたの?」メアリーはホームズから離れ、ドイルの岩のような肉体にしがみついた。

「どこでどうしてたって言うのよ。私とキングズリーは学校も休学しようと相談してたのに。ダディ、勝手にいなくなったりしないで……っ」

 キングズリーも目尻を赤くしたが、唇を噛んで父親のほうを見ようとはしなかった。

 ドイルは首を傾げた。

「勝手に? 勝手にとはどういう意味だ。私は書き置きを残したぞ。あの朝ジーンと日課の霊的な儀式を」ワトソンを見ると、彼は慌てて咳払いした。「……その。聖なる者との交信をだな」

 まったくフォローになっていなかったために、ワトソンはいった。

「それについてはすでに聞いたよ。あなたのお母上から」

 ドイルは目をさ迷わせ、うなった。

「知っておいていただきたいのだが、ワトソン君。私はこの一連の活動――まだほんの親しい人間としか議論していないが――の中で、長続きしていた友人のほとんどを失っている。自分が信じている興味の対象のためにその事態を招いてしまったことは、私の不徳の致すところだ。しかし」

 ドイルはうつむいて、娘の肩を強く掴んだ。「あなたとの関係がこれで終わってしまうようなことがあったらと思うと、話すことはできなかった」

 ワトソンは言葉を選んだ。

「大切にしている何かが違うからといって、その程度のことで友情を捨てられるものだろうか。もしそうだというなら、その人たちは君の友人などではなく、初めからただの知人だったのだ」

「ワトソン――」

「私の君に対する態度はこれからも同じだよ。変わって見えるとしたら、君の気持ちがそうさせたのだ。ドイル君、私は」

「すまないが」ホームズが口を挟んだ。「事態は一刻を争う。続きはボウズが出てきてからやることにしないかね?」

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