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「デニスを知らない?」裏手に回り込み、ホームズたちの傍に走ってきたメアリーは、かなり慌てていた。「いなくなってしまったの。さっきまで部屋に居たのに!」
ホームズとワトソンは顔を見合せた。たっちができるようになってから数時間だが、あの子なら走るくらいのことはやってのけそうだ。
「落ち着くのだ、メアリー」
メアリーはパッとホームズの肩口に顔を伏せた。ホームズは彼女の震える体を片手で抱きよせ、ワトソンを見てうなずいた。ワトソンはいった。
「手分けして探そう。テラスでお茶をご馳走になっていたキングズリーが何か見ているかもしれない」
「残念だけど、僕も目を離してしまった」キングズリーは厩戸の反対口から現れた。「そんなに驚かないでください、ワトソン博士。僕ら兄弟はこれくらいのことは朝飯前なのだ。盗み聞きに関しては謝ります」
「紳士的な行為とはいえないが、私は君たちの父親ではないからな」ホームズは眉をあげた。「とにかく足跡を探せ。何者かが連れ去った形跡がないか、周辺の聞き込みと……」
ホームズは言葉をきって、ぽかんと口を開けた。
その様子があまりにも不意をつかれた感じだったので、ワトソンたちも視線を移した。
「こんなところで、揃ってどうした?」
――ドイルだった。
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