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 宿屋の店先にはキングズリーが主人の接待を受けていた。少年は異国人にも関わらず誰からも好かれ、周りの大人たちを魅了していた。

「こっちだ」

 ホームズはワトソンを裏手にある厩戸へと案内した。

 ひと気がないので話しやすいという判断なのだろうが、数々の突飛な言動を目にしているだけに、よもやこの中年に襲われでもするのではないかという身の危険を感じてしまう。

 ホームズは警戒しているワトソンの様子に苦笑した。

「君は射程圏外だよ。心配しなくても大丈夫だ。私にも好みというものがある」

 架空の猟銃を構える。アルプスの山々に狙いを定め、ぐるりと一望したところで怪訝そうに眉をひそめた。

「――何か光った」

「えっ?」

 あそこだ、と両手でもって強制的に向きを変えられたが、ワトソンにはわからなかった。

「すまないが、私は目がとても悪いのだ。先の戦争に続いて、次の戦争でも参戦不可の通知が届いたほどに」

「……まさか志願したのか」

 ワトソンは一段低くなったホームズの声に、後ろを仰いだ。「悪いかね。老いぼれにもやれることがあると思ったのだ。ドイル君とて何かと国に貢献している」

「すべて失敗しているだろう」ホームズは鼻を鳴らした。「私がもう一人こちらに居れば、君たちにそんな真似は絶対させなかった」

「知り合いのようにいうのだな。君は――」ワトソンは躊躇った。「本の世界から来たのだというのに」

 ふたりの男は向かい合い、立ちすくんだ。

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