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 ワトソンは全く納得いかなかった。理屈では考えられない。

 例の本はホームズに取り上げられてしまったし、続きを聞こうにも、キングズリーはマイリンゲンの村につくと宿屋の手続きに追われてしまった。メアリーは唯一女性であるがために疲れて別室で突っ伏してしまったしで、赤ん坊以外の誰もワトソンの相手をしてくれそうになかった。

「気分が悪いの? ワトソン博士」小さな指できゅっと抱きついてくる。「パパが心配なんだね」

「ああ……いや、そのことでは」ワトソンは説明に窮した。「デニス。ホームズのことなのだ。彼は、つまり、その」

「お話の中の人だよ。現実にはいないの。機械のように動くんだ」

「だが、見れるし触れる!」

 デニスは首を傾げた。「何か問題があるの? でもパパには言わないでね。ショックを受けるといけないからって、口止めされてるの」

「誰に――」

 シャーロックおじさん――と赤ん坊が指差した方を見れば、戸口でホームズが手招きをしていた。

「ワトソン君。話がある」

「……今でないと、駄目かね?」

 本を掲げて、ぽんと拳で軽く叩く。ワトソンはため息を吐いて立ち上がった。

 デニスはふたりの様子を部屋の中央から見送った。

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