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「インスピレーションの綴りがレスピレーションになってるの。これは間違いなくパパの字だよ!」
立ちションによって、炙り出しのように岩から文字が浮き出ていた。ワトソンは非現実を一端脇に置いて、しゃがみこんだ。チョークは一度消された跡があったが、ホームズの小便によりかろうじて判読可能だった。
「誰かに連れ去られたのかもしれないな」ホームズはいった。「私の機転がなければ見過ごしていた可能性が高い」
「シャーロック。真面目な顔をしても騙されないわよ。あなたが書いたんじゃなくって?」メアリーは冷たかった。
「レスピレーション――呼吸?」ワトソンは疑問を口にした。
「パパは書き間違いが多いの。でもこれは、ぼくたちに知らせるためにわざとしたことだよ!」
キングズリーは何も言わなかった。半ケツを出したままの弟のオムツを手早く変える。
「でも、いったい誰が」ワトソンは聞くべきことを思い出して震えた。「いや、そもそもスイスくんだりまで来て、なぜこんな広い土地でかなりの偶然を経て、ドイル君の書き置きまで発見できるのだ――」
ドイル兄弟と探偵は神妙になった。
「ワトソン」
「ワトソン博士」
ワトソン以外の四人は盛大にため息を吐いた。探偵が代表して発言した。
「……それが本というものの力だよ」
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