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 どんな手段を使って得たものか、失踪先の手がかりは信憑性があった。ホームズとワトソンは長期の旅行をするはめになった。もちろん子供も一緒にだ。

 しかしこれに異議を唱えた人たちがいた。

「可愛いかはわからないけど、義弟は渡しませんよ。シャーロック」

 ドイルの前妻の娘、義姉のメアリーだった。

「どうしてもと言うなら、僕たちを倒してからにしてください」

 更にこちらは義兄のキングズリーだった。

 二人は寄宿学校から実家に帰ってきていた。ワトソンは長い間、妻との関係に頭を悩ませ、上の二人とは初対面だった。

 そこでは彼らの若い継母がしくしくと泣いており、気丈に振る舞おうと腕に抱いたデニスの頭をなでさすっていた。

「ママ。姉上。兄上。ぼくは大丈夫です。グランマも是非にと言ってましたよ」デニスは嘘をついた。「それにシャーロックだけではないのです。ぼくにはワトソン博士がいます」

「えっ」

 つい家で怒り狂っているであろう妻の様子から意識を逸らしたいせいでついてきてしまったが、まだ一緒に行動させる気なのか。

「駄目よ、デニス。私たちはあなたに対して責任があるの」義妹が言った。彼女は二十歳前後だったため、義弟はもはや子供のようなものだった。「いいこと。ダディはシャーロックの存在がよくわかっていないの。彼がどこから来て、なんの目的で私たちの前に姿を現したのか理解してないのよ」

「でも」

「もちろん僕らも、彼の能力を疑っているわけではないのさ。シャーロックはときに便利だからね。失せ物を探すときや……」キングズリーは考えた。「ちょっと自力では解決できそうにない事件などに遭遇したときにはね」

「人を便利屋扱いしないでもらえるかな。子供たち」ホームズは胸を張った。「私はこれでも元探偵なのだからね。引退はしたが」

「えっ」

 ワトソンは思わず隣に立つ鉄塔のような男の顔をのぞきこんだ。「探偵というと、あの……小説に出てくるような?」

「ああ――まだ読んでないんですのね。ワトソン博士。私はその本が原因で家を出てしまったんです。デニスが心配で戻ってきたのですが」

 ドイルの妻にさも気の毒そうに手元の本を見つめられ、ワトソンは固まった。

 これは……いったい何の本なのだろう?

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