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 情報が必要だというホームズについて、ワトソンはデニスを抱いたまま市内の警察署を訪れた。旅行鞄はホームズが持った。

 そこではブラッドストリートという警部が机の前に前屈みになり応対してくれた。

「失礼。部下のほとんどが出払っておりまして。休暇のせいで補助動員されましたが、いやはや。この近辺の事情にはさほど詳しいわけでもなく」

「問題ない」ホームズは高圧的だった。「アーサー・ドイルという男を知っていらっしゃるでしょう」

「誰ですって?」

 ホームズはしまったという顔をした。

「今のは忘れてください。行方不明者が一人いるんですが、この人はかなりの大柄。骨太。肉厚的だが肥っているわけではなく、若いころに鍛えすぎた筋肉の名残で顔が少し下膨れています」

「ああそのドイルさんですか」

 ワトソンはぎょっとした。なぜ今の特徴でわかるのだ。

 しかしホームズは疑問を持たず、先を続けた。

「そのドイルだと思います。違ったところで構いはしません。行方知れずとなってほぼ二日、知人の私と子供のデニスと愛……友人のワトソン博士と彼を探しています。どうか身になる情報を教えてください」

「そうは言われましてもね。あなたは部外者だ、ホームズさん」

「そこをなんとか」ホームズは人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。「もちろんタダとは申しません。ね」

 ブラッドストリートに近づき、机の上に腰かける。すりよる姿にワトソンの背筋はぞわっと総毛立ったが、片手で顎先をごろにゃんとばかりに撫でさすられ、警部の髭は垂れ下がった。顔は真っ赤である。

「うむ。うん。いいでしょう。しかし調べる時間が必要です」

「待ちましょうか。それとも」ホームズは充分に溜めた。「……一緒に?」

 デニスがワトソンに耳打ちした。「あれは誘惑してるの。シャーロックの特殊能力だよ」

 ワトソンの視線はホームズの尻に回された警部の指辺りをさ迷った。彼はそちらに意識をやらないようにすることで、精一杯だった。

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