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「グランマと何を話していたの?」

「君には関係ないことだ。おとなしく遊んでいなさい」屋敷を出たホームズは、ワトソンを振り返った。「その本にはかなりの値打ちがあるのだ。くれぐれも、くれぐれも大事に取り扱ってくれたまえ」

 ワトソンが本を開こうとすると、素早くホームズの手が伸びてきた。「簡単に中身を見るな!」

「えっ……だが」

 気になるではないか。ドイル家のグランマとの主従関係も、そもそもドイル自身とどういう関係なのかも。ワトソンはホームズの顔を滝のように流れる汗を、怪訝そうに見た。

「ぼくは知ってるよ」

 腕の中でふんぞり返った赤ん坊に、ワトソンは軽い嫉妬心を覚えた。ホームズの血走った眼差しを無視できるのはすごいことだ。

 駅舎の椅子に座り込み、ワトソンは田園の眠たくなるような心地よさにひたった。

「これからどうする。手がかりどころか、今どうして私がほとんど初対面の君たちと行動しているのか、理解できないのだが」

「考えるな。感じろ」ホームズは何か著名な作品のパクリを呟いた。「ワトソン君、私たちは初対面ではない。かなり親しい間柄なのだ。そう、君という人がどうしてここに居て、なぜ私と会話しているのかという結論を論理的に導くと……」

「シャーロックはホモだよ」

 デニスがこのタイミングで問題発言をした。ワトソンは牛三頭ぶんほどの距離を取った。「でもこのドクターは駄目なの。パパの愛人なの」

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