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 その数日後のことである。

 家に帰ったワトソンは、襟巻きを処分し家政婦を解雇し、親戚の家に身を寄せているメアリーを呼び戻したことで、すべての悩みから解放された。

 ――ように見えた。

「ホームズさんがいらっしゃってますわ」妻の声は冷たかった。

「誰だって?」

 ワトソンは慌てて机の上の原稿を隠した。余暇に任せて書き綴った官能小説の束は、ワトソン自身であきれるほどの量になっている。

 それだけ往診の患者が少ない証拠だ。近年では開業するのも儘ならなくなり、医院を閉めたばかりだった。

 妻は官能小説の中身も知っていたが、努めて無視していた。

「ご友人のホームズさんです。背が高くて鼻に特徴のある」

「ああ! 彼か」ワトソンは思い出した。「すぐに行くと伝えてくれ」

 階下の客間のソファには、デニスを腕に抱いたホームズがいた。出された紅茶をちびちびと飲んでいる。

「ワトソン博士」デニスは声をあげた。

「ほら、メアリー。言っただろ」ワトソンは妻を振り返った。「ドイルの息子は天才なんだと。私は嘘などつかない!」

「ええ。襟巻きに関して以外はね」妻は表情を変えなかった。デニスの顔を見るとにこりと微笑んだ。

「いいこと、ぼうや。この人が今度浮気めいた行いをしたら、真っ先に知らせてちょうだい」

「うん。わかった」デニスはいった。「あのね、ワトソン博士はぼくのパパの愛人なの」

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