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 ホームズの言葉を聞くと、ドイルはがっくりと落ち込んだ。そして自室から全く出てこようとしなくなった。

「パパ! ダディ! ダッド!」息子のデニスは叫んだ。「グランマは怒ってないよ」

「そっとしておこう」デニスを抱き上げたまま、ホームズはワトソンを振り返った。「タイミングが悪かったようだ。すみませんね」

「いえ、そろそろ帰ろうかと」ワトソンは安堵した。

 後輩は気の毒だが、任せられる人間が来たのなら大丈夫だろう。これ以上この親子に振り回されるのはごめんである。

「……アフガニスタンからご帰還なされたので?」

 何か最初のほうで聞いた気もする言葉だが、ワトソンは椅子にかけた外套と襟巻きを取った。

 部屋の扉に向かって声を張り上げる。

「お邪魔しました。――ドイル君! 気を落とさないように。母上も心配なさってるだけだよ」

「また来てね。ワトソン博士」デニスは目に見えてしょぼんとした。

 ワトソンは後ろ髪を引かれたが、そそくさと退場した。

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