13
紹介された男はシャーロック・ホームズと名のった。頭が大きく、大男のドイルと背が並ぶほど大きい。幅はなく薄っぺらいが、すこぶる印象的である。
彼は私と握手してから、赤ん坊を抱き上げた。
「やあジェームズ」
ドイルが首を振った。「ジェームズという名前は母に却下されました。ミスター・レッキーは歓迎してくれたのだが」
「パック」
「それも駄目で」
「……パーシー?」
「同じ名前の従兄弟がいるからそっちは嫌なの。ちがうよ、ちがうよ!」
ホームズは薄い唇の端を引き上げて笑った。
「デニス・スチュアート。ちゃんと知っているさ。どっちの呼び方ならいいんだね」
「デニス!」
ドイルはぎょっとした。「なぜその名前が最新版だとわかったんですか? どこから聞いたのだ」
「情報源はパパには教えてはならない。わかったな、デニス」
「はい、おじさん」赤ん坊は素直だった。
「シャーロックでいい。君や君の義理の兄弟たちは特別だ。よし、デニス。お母さんはどうした」
「パパに飽きて出ていったの。ぼくに嫌気がさしたんじゃないよ」息子はぐずりだした。「すぐ帰ってくると思う?」
「もちろん、すぐだとも。あんな上機嫌な彼女を私は見たことがないからね」
「嘘つき。シャーロックの嘘つき……!」
「嘘つきは君のパパだよ。おばあちゃんにはバレないように、手紙では何の問題もない風に書いているんだから」
「だからなぜうちの家庭事情を知っているのだ。ホームズさん」
親子は二人してホームズに掴みかからんばかりに顔を寄せた。ホームズはいった。
「私を派遣したのがグランマだからさ――」
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