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「パパ。大好き」

 息子の顔はピクリとも笑っていなかった。当然言葉のほうも棒読みだった。

「ローストビーフが、だろう」ドイルは肉を二本のナイフで切り分けながらいった。

「ボーイ、私のことは?」

 赤ん坊は少し考えた。「おじさん……パパの愛人なの?」

 ワトソンは紅茶を口から噴き出した。「――意味がわかっているのか」

「わかっているんですよ。困ったことにね」ドイルはまったく動じなかった。「ワトソン博士は既婚者だぞ、息子よ」

「知ってるよ。でも愛人なの?」息子の二つのまなこは肉にしか注がれていなかった。「おヒゲもおそろいみたいだし」

「同時に生やしたから。いかにも」ワトソンは咳払いした。

「私が真似をしたのだ。ワトソン博士は学生時代から素晴らしい医師の卵だったのだよ」ドイルは微笑んだ。

「ぼく」赤ん坊はまた考えた。「大丈夫。口はかたいほうなんだ。二人が警察に捕まらないよう祈ってる」

 父とその友人は乾いた笑いを顔面に貼りつけながら、(口に気をつけろ!)と思ったが、互いの目を見ずとも意志の疎通ができていた。

 息子は一人で肉を八割方平らげた。

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