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 ワトソンはドイルの息子に少し慣れてきた。

「科学実験が好きなのかい?」

「そう」

「科学者になりたいのかい」

 赤ん坊は少し考えた。「わかんない。科学者ってなに?」

 ワトソンは嬉しかった。聡明な子供にでも自分が教えられることがあるのだ!

「科学者っていうのはね……」ワトソンは笑顔になった。「そうだな。実験したり、勉強したり、新しい物を発明したりする人のことだよ」

「今やってるよ」赤ん坊はいった。「ぼく、科学者なの?」

 ワトソンは困った。理論や仮説をたてて研究する者が科学者だとすれば、彼はすでにそうなのではないか。

「私が君に投資でもしたらね」

「ガラガラの玩具をくれたじゃない」

 彼が持ち上げたそれは、すでに炭酸製造器になっていた。どこをどうしてどう造り上げたかワトソンは見ていたのだが、錬金術師並みの神業であった。

「わかった。科学者って、つまり赤ん坊みたいな人たちのことなんだね」

 ワトソンは恐怖に震えていた。この子の頭脳にかかれば科学者も確かに赤ん坊である。

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