08
赤ん坊は父親がいなくなったとたん、家中をハイハイした。
その速さは、足の悪いワトソンでは追いつけぬほどだった。
「ボーイ、階段はあぶない!」
「大丈夫だよ。ぼく、おじさんより運動神経がいいの」
親子揃って失礼である。ワトソンは階段を転がるようにして降りていく――落ちていく?――赤ん坊を追いかけた。
「ネズミの巣を見つけたの」
また少し安心した。子供の子供らしい面を見ると、気持ちがやわらぐ。
「猫いらずをどれだけ避けることができるか、一方に薬を飲ませたの。みて!」
前言は撤回しよう。これは赤ん坊でもなければ子供でもない。
箱の中では気の毒なネズミが、残酷なる天使の手勢のごとく働かされていた。
「こんなことをしてはいけないよ」
「どうして? ネズミで実験すれば、おじさんの足みたいにひどい目に合わなくて済む兵士が増えるかもしれないよ」
ワトソンはどきりとした。この子の目はなんと澄んでいることだろう。
「そうだな……そうかもしれないな」
「そうだよ。それにね」赤ん坊は無邪気だった。「敵兵士は倍やっつけられるしね!」
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