07
ぐったり椅子に座りこんでいるワトソンの横に、これまたぐったりしているドイルが座った。
「信じられん。燃えかすには酒や果物汁の瓶を開けて、染み込ませてあった。煙の匂いをかぎ分けたかったのだろう。もちろん一枚も残ってない」
「私はおしまいだ。メアリーは家を出たらしい」
二人して盛大にため息を吐く。息子はガラガラを分解して、炭酸製造器を作ろうとしていた。どこをどうすればガラガラがガラガラ以外のものになるのかわからないが、成功しつつあるのは間違いなかった。
「ドイル君。息子さんは天才だ」
「それに異存はありません。私が歓迎してるか否かは別として」
ワトソンはうなずいた。「まるで機械のように思考しているのだろう。なに、まだ赤ん坊だから仕方ない。もっと大きくなれば――」
「慰めは要りません。お気遣いどうも」
黙りこくって、目を合わせる。
「ねぇ、パパ!」
父親は返事をしなかった。かわいそうだが道理だとワトソンは神妙になった。
「パパったら!」
「なんだ……」
息子は指をくわえた。「ぼく、お腹すいたの。ローストビーフが食べたい」
「えっ」
ワトソンは思わず赤ん坊の顔を見た。ドイルはため息をさらに吐いた。
「ミルクで育ったのは最初の三日だけですよ。母乳がいらないもんだから母親など自分の存在意義に疑問を感じてしまって……ちょっと買ってきますので、見ててやってもらえませんか」
「えっ」
この子と二人きり? と思ったが、ドイルの眼差しが切実だったので、ワトソンはうなずいてしまった。
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