06



「おじさん。ドジな家政婦に悩まされてるね」

 暖炉の燃えかすを漁りにいった父親の泣き声を背後に、息子はワトソンにいった。

「すごいな。わかった。靴の手入れが行き届いていないからだろう」

「ちがうの。家政婦はね、おじさんのことが好きなの。それでね、誕生日のプレゼントを用意したの」

「それは初耳だ」ワトソンはびっくりした。

「首に巻いてる襟巻きは、奥さんの手作りじゃないの」

「そんな馬鹿な」ワトソンは笑った。「これはメアリーが私のために端正こめて編んでくれたものだ」

「ちがうよ。同じ毛糸で家政婦が編んだものだよ。主婦ほど時間に余裕がないから横糸がとびとびなんだ。イニシャルを見て」

 ワトソンは呆然とした。「そんな。いつから……」

「奥さんは気づいてるの。それで、家政婦とおじさんの仲を疑ってるの」息子はいった。「我慢ならなくなってるよ。カフスの伝言をちゃんと読んだほうがいいよ」

 ワトソンは何を言われているのか全く理解できなかった。というのも耳はともかく脳ミソには異常はない――と信じきっていた――が、新聞の日付や名刺の名前を読み間違うくらい目は悪かったからだ。

 聞き手と逆の袖口には、妻からの絶縁状が記されていた。

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