04



「アフガンから帰ったことがどうしてわかったのか、まだ聞いてないんだが」

 ワトソンの声に、ドイルはいった。「賢明とはいいかねます。息子は少々頭がおかしいのです」

「ぼく、おかしくない!」息子は腕の中で暴れた。

「おお、よしよし。観察力が鋭いのはいいことだ。――しかし五分黙ってろ」

 温厚なドイルの目が血走っていた。ワトソンはそんな後輩を見るのは初めてだった。

「パパ。怒った?」

 息子は首をかしげて、涙目になった。ワトソンは彼にも少しは可愛げがあることに気づいた。

「ママの調子が悪くなったから? ぼくのせい?」

「ちがうぞ、息子よ」

「科学実験で薬品を絨毯にこぼしたから?」

「それもちがうぞ、息子よ」

 ドイルは彼の目をぬぐった。息子はいった。

「玩具の拳銃を改造して、壁にVRと刻んだのは許してくれるよね」

「それは許さん。壁紙を張り替えたばかりだった。しかしおまえに怪我がなくて何よりだよ」

 赤ん坊は父親にぎゅっと抱きついた。父親はよしよしとまた背中を叩いた。

 その光景はなかなか感動的なものだったが、ワトソンは身の危険を感じて、早く帰ろうと思った。

 この家にいると命がいくつあっても足りない。

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