03
「それからね、お嫁さんはおじさんに飽き飽きしてるの。帽子の手入れが全然なってないし、それにね」
「ご挨拶からだぞ。ぼうや」
ドイルは根気強くいいつけた。赤ん坊を床から抱き上げる。先月産まれたばかりとは到底思えなかった。
ワトソンの目は赤ん坊の大きな頭に釘づけだった。まだ生えそろっていない毛が窓からの風にそよいでいる。
「こんにちは。ワトソン博士」
礼儀は正しかった。ドイルは息子の背をポンポンと叩き、何度か揺すった。
「よくできたな! えらいぞ」
「……ドイル君。褒めるところはそこかね」
息子はポッと頬を赤らめた。赤ん坊なのでもともと赤いのだが。
「パパ。パイプ買って」
「オムツが取れたらな」
ワトソンは驚愕した。たしかにまだオムツを履いている。
「じゃ。虫メガネ」
「ハイハイが済んだらな」
息子は指をくわえた。
「わかった。コカイン注射器で我慢する」
「――ヴァイオリンにしときなさい」
ワトソンは甘やかしすぎだとドイルを見たが、髭を引っ張られて疲れきっているので注意はしなかった。
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