02
「私が悪かったのです。ワトソン君、気をたしかに」
ドイルは一度扉を閉め、ワトソンを別室の長椅子に寝かせた。
「あああ、あの。最近どうも疲れているようで」
「違います。結婚してから三ポンド増えたでしょう」
よけいなお世話である。
「もともと耳が悪く、聞き間違えが多くて」
「知ってます。耳ではなしに脳の処理能力に問題があるのです」
「……あれ。なんですか」
ワトソンは隣の部屋を指でさし示した。人の子供を『あれ』扱いとは、こちらも最低である。
「『あれ』がうちの長男です」ドイルは気にも止めなかった。「彼にはさまざまな問題があって――」
「問題? 手品でなければ、天才ではないか!」
「手品ではありませんよ。手品であればどれだけマシなことか」
ドイルはため息を吐いて、ギクリとした。
視線のほうにワトソンも目を向けると、扉のすき間からハイハイをしてこちらにやって来た赤ん坊が見えた。
「パパ」
「おお、息子よ。その、こちらはだね……ワトソン博士といって……」
「おじさんはね、たいしたケガや病気でもないのに傷病年金を国からもらってるの。そしてね、官能小説を書くのが趣味なの」
ワトソンは小さく悲鳴をあげた。ドイルは頭を片手で押さえた。
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