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「君の妹たちがとんでもないことをいってるぞ」ワトソンは扉から耳を離さずにいった。「女性はなんて強いんだ。見習わなくては」
「君の奥さんほどではないよ」ホームズはベッドでパイプをふかした。「ああ、もったいないことをした。今からでも部屋を変わらないかね? この組み合わせはやはりおかしい!」
「君らしくもない。だいたいどっちをどう料理する気だね」
「もちろん私を挟んでエイミーとベスだ。わかるだろう。常識だよ。それこそ初歩だよ。私が兄だぞ?」
ワトソンはあきれた。「……具体的に料理の仕方を知ってるとは思えないが」
「――?」ホームズは体を起こした。「聞き捨てならんな。どういう意味だ、ワトソン君」
「子供の作り方だよ。」
「馬鹿馬鹿しい。子供のときにマイクロフトが教えてくれたさ。ヘソを使うんだ」
ホームズは自信満々にいった。ワトソンはやっぱり、という感じで扉に頭をぶつけた。
「聖なる握手の次の段階だよ。突っ込めばぴったりのサイズになるらしいな。どうして震えているんだ、ワトソン。寒いのかね」
ホームズはイライラした。笑いをこらえていることは推理なしでわかったからだ。
「太陽系についての知識と同じで、とぼけていると昔は思っていた。男同士の場合でどうして肛門が問題視されると思うのだ。そっちは知ってて何故肝心のほうは知らないのだ」
「あいにく君と違って覚えなければならないことが多すぎてね」ホームズは憮然とした。「さて。鍵穴についての議題はそこまでにしよう。妹と間違いをおかさなかったことに乾杯だ」
「寝酒は困るね。今夜は特に」
ホームズは息を呑んだ。ベッドの端でシーツを手繰り寄せる。
「火掻き棒の出番はないぞ」
「ズッキーニの出番はあった」ワトソンは微笑んだ。「知り合いに農場持ちのデイヴィッドという男がいるから、エリザベスに紹介してやりたい。その道の権威になる」
「ワトソン、お尻の牡蠣を食べるのはごめんだ。私は君の奥さんと違って牡蠣の面倒だけは見たくない」ホームズはどこまでも冷たかった。
「生牡蠣のほうは腹を壊すから舐めるだけでも……」
「豚。黙れ」
「もっと言って」ワトソンはひるまず探偵の上にまたがった。「この豚は耳は悪いが、ものすごく嗅覚がいいのだ」
ワトソンはご機嫌に鼻歌を歌い始めた。そしていった。
――さ、君のトリュフを出してもらおうか。
End.
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