38
ホームズは片膝をついていた。返事がいつまでも返らないためにいった。
「私が話す。イエスなら一回。ノーなら二回。答えたくないなら三回だ。わかったな」
どんなときでも命令口調である。しばらくすると、コンと音が返った。
「……ワトソンが好きなのか」
直球だった。エイミーはゴンゴンゴンゴンと叩いた。
「わかった。三回以上でいい。兄さんが悪かった」
ホームズは座りこんで戸棚にもたれた。掃除道具が入っているはずだ。
「寒くないかね」
――コンコン。
「虫はいないか」
――コンコン。
「……いても平気だったな」
――コン。
ふたりに何もなかったことは、部屋に入ってすぐにわかった。情事のにおいもしなければ、シーツのシワも通常通り。血もなかった。
ワトソンの様子がまず違っていた。出したなら勃たない。勃つはずもない。いくら妹が若いとはいえ、男が元気なのは鍵を開けるまでの話だ。開けたら終わりだ。次の部屋はない。
それで左手は出なかった。何度もいうようだがあの男は馬鹿なのではない。馬鹿なのはもうひとりのほうだ。
――だから必要なのだ。
「兄さん。今度は私が話したい」
妹の声は、穏やかだった。ホームズはコン、と叩いた。
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