28
長女のメグは、ワトソンの部屋から出てこない末っ子のことで頭を悩ませていた。
「お兄さま。エイミーに何をおっしゃったのかしら」
まさかと思うが、出生の秘密とか――とそのことばかり心配になる。このタイミングでそれはないと思いたいが、兄のことだからわからない。
家族問題のほとんどはくだらないものだったが、今までに何度ご都合主義の解決をしてきたことか。女の考えていることは理解できないと突っぱねられたことも一度や二度ではない。
ホームズは今朝早くに家を出たきりだ。どこにいくのかさえ告げなかった。
「どうしましょう」扉をちらりと見て、メグは妹をそっとしておくことに決めた。「エイミー。下にいるわね」
返事はやはりなかった。
階段を数えながらおりると、不思議なことに気づいた。「あら、やだわ。十五段しかないじゃないの」
「そうなんですよ」
ハドソン夫人だった。ポットとカップののったお盆を持っている。
「外側とちがって、あちこちガタがきてるものだから。減らしたり増やしたり。おそらく地盤がゆるいんでしょう」
「……お兄さまが壊したとかではなくて?」
「まあ、それも多少はありますけどね。たいていそれ以前にぼろぼろなところを、ホームズ先生がわざと壊したりして。弁償するといっては下宿代を多めに支払ってくださりますから、心配いりませんわ」
メグはほっとした。「ハドソンさん。妹は気分がすぐれませんの。よろしければこちらで一緒にお茶にしませんこと?」
「いえ、わたくしは……お嬢さまとは緊張して……」一見してそうとわかるほど照れていた。
メグは上目遣いでハドソン夫人を見上げた。
「お願いしても――?」
「あの……はい」ハドソン夫人は無意識に答えた。「えっ。あの。……えっ?」
メグはお盆を取り上げ、スカートの端をひらひらとさせながら優雅に歩いていった。
ハドスン夫人は自分の身に起きたことが理解できなかった。一瞬のちに、首まで真っ赤になる。心臓の音だけはバクバクととてもうるさかった。
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