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 ホームズは武者震いで目がさめた。

 背中に人の気配を感じる。

「ワトソン――?」

 彼のはずはない。ワトソン博士は拘束され、裁判を待っている身のはずだ。

 自分を起こさずベッドに入ってこれる技術を持ち合わせていない。

 薄暗い室内のどこかで、衣擦れの音がした。ホームズはため息をついた。

「エイミーか」

「――なぜわかったの」

 ジョーとベスはマイクロフトのところに泊まっている。メグは絶対に兄のベッドにくることはない理由があった。

「怖い夢でも見たのかね」

 ホームズは背中に女性らしさのない骨と皮だけの肉体を感じた。

「兄さん。聞きたいことがあるの」

「――」

「そのままでもいいわ。お願い。兄さんの口から聞きたいの」

 ホームズは暗闇でうなずいた。「いつかは来ると思っていたさ」

 妹は息をつめた。兄はこれから聞くことも見当がついているのだ。

 エイミーは覚悟を決めた。

「私ね。昔から、兄弟の中で馴染めないなにかを感じていたの。……知ってた?」

「おまえが悩んでいることも、すべて。兄弟みんな」

「父さんは黒髪、母さんは栗毛、金髪の従兄弟もいるけど、親戚の中に赤毛はいないわ」エイミーはすうと息を吸った。

「溜めては駄目よね。聞きたいのはつまり、そういうことよ」

 ホームズは起き上がり、ベッドに寝そべる妹を見ないように立ち上がった。ひとこといった。


 ――そうだ。


「わかった」エイミーは笑った。ひとつ年上の姉を真似て明るく振る舞った。「ありがとう。そうなのね。やっぱり……そうだったのね」

「エイミー」

「それでね。兄さん」

 エイミーはぽたぽたと流れる涙を懸命にぬぐった。

「もう、無理だろうけど。今夜は、今夜だけは、一緒に寝てくれる? 私ね、エリザベスと、ベスと話して。それで、あのね」

 ホームズは振り返らなかった。「駄目だ」

 エイミーは食い下がるつもりだった。

 扉をキイと開けてうつむいた兄の月明かりに照らされた唇が、震えているのを見るまでは。

「駄目だ――すまない」


 ――返事はなかった。


 二人はおやすみも言わずに別れた。

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