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「ワトソンの罪状が増えたらしい」
ホームズもさすがに呆然とした。スポーツ新聞の見出しを読む。
「スコットランドヤードの警部を強姦未遂。この切れ者の大痔主は自らを医者であると偽った上にヤードきっての敏腕警部に不道徳で破廉恥な行為をした疑いがある。拘束中の留置場から精神病院に移される途中での犯行――精神病院?」
「ポロリを口実に警部が手を回してくれたのかもしれないな。我々が助けやすいように」マイクロフトは葉巻をすぱーとやった。「博士の後先考えないふるまいのせいで無駄に終わったが」
「誰のせいでワトソン博士が刑務所行きになってると思うの……」エイミーはあきれた。しかしすべてはワトソンの自業自得だった。「それって、警部のほうは大丈夫なの?」
「どっちが鍵穴にさしたかによるな。ああ見えてレストレード警部のプライドはエベレスト級だ。私でさえ言葉には気をつけているのに」
ホームズは面と向かって言わないだけである。陰口が大好物だからだ。聖人には探偵などつとまらない。
ホームズはパイプをくわえ、新聞は机に放り投げた。
「エイミーのいっているのは、体や心ではなく、仕事のことじゃなくて? お兄さま」
「うむ。仕事に支障は出るかもしれないな。ヤられたあとなら」
ジョーはぱくぱくと口を開けながら、溺れかけの魚のようにあえいだ。ホームズはあわててパイプをエイミーに渡し、次女の背中を落ち着くまでなでてやった。
エイミーは渡されたパイプをそっとくわえて吸い始めた。ベスはそれを見ていた。
「そうではなくて」長女は後半を聞き流した。「名誉のほうですわ。このままでは、警部も男色趣味があると判断されてしまうのではないかしら」
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