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「姉さん」

 エイミーはベスの元へ腕を組みながらいった。ベスは路地裏の階段に座って、石畳の間から咲いた花を見つめていた。「どうしたの」

「私、だめね」

「知ってる」

「……エイミーは、慰めてはくれないのね」目の前の雑踏でかきけされそうな声だった。

 妹は肩をすくめた。「口からでまかせの安易な言葉が、助けになったことある?」

「ないわ。でも、気持ちは落ちつくわ」

「兄さんがよくするみたいに」エイミーも隣に座った。「人の手を握って、気持ちを落ちつかせて、安心させといて、聞きたいことだけ聞いて。たとえ相手が傷つく結果になっても、あとのことは知らない。我関せずで、さよならするのよね? ――果てしなく時間の無駄だわ」

「そうね」ベスはくすっと笑った。「でも、それで人を助けているのだから、すごいわよね」

 妹は少し黙った。自分の折れそうに細長い手足を見つめる。姉の体と見比べ、珍しくため息をついた。伸ばした人指し指には、蝶でなく蠅が止まった。

「すごいわよ。こんなに汚く、何が腐ってるのかわからないようなにおいの世界を受け入れて、あれだけお涙ちょうだいの綺麗な物語にしてしまうワトソン博士もね。ただ者じゃないわ」

 姉は妹をのぞきこんだ。「エイミー。ワトソン博士のこと、どう思ってるの?」

 変態中年、と返ってくることを覚悟した。しかしエイミーはわからないわと静かに答えた。

 ――そしていった。

「姉さんこそ、シャーロックのこと、どう思ってる?」

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