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 兄妹は楽しいデートを終えて帰路についた。すっかりあわれな浮浪者と淑女の図だった。隠れ家で着替えようということになった。

「いくつ隠れ家を持ってるの? お兄ちゃん」

「ベイカー街には五つくらいだね。ロンドンには十軒はあるね。イギリス全体だと三十軒はかたいね。世界中なら六十は間違いないね」

「すごい!」

 キラキラした妹の目は疑いを知らなかった。見栄をはった兄の良心はズキズキと痛んだ。

「マイクロフトお兄ちゃんがためこんでるからね。さ、入りなさい」

「えっ。まだお小遣いをもらってるの」ベスはうらやましそうにいった。「私より倍近く生きてるのに。お仕事ないの? まさか……ワトソン博士に脅しとられてるの!」

 ベスはホームズの胸に抱きついた。ホームズの息は機関車より早くなった。鼻からロンドンの汚染された空気を噴き上げ、目の前の空気は黄色く染まった。

「お、脅されてなどいないよ」

「強姦されたの、それとも合意の上なの? ここは二人の愛の巣なの?」

「ときとしてまあね、生理的な、その、なんだね。まあとにかく入ろう。独身者にはいみじくも最良の……ワインボトルとそのグラス、あるいは栓抜きというものがあってだね。そういうものを一般的に『ホームズとワトソンのような』と表現するのだ」

 ホームズは言い訳がましくわけのわからぬことをいった。

「肉便器なのね」わっと泣いた。ベスはたしかに容赦なかった。

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