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 ワトソンは満足していた。実のところホームズを刑務所に追いやってから、妹たちは散り散りになってしまっていたのだ。

 この三ヶ月、ワトソンは長い禁欲生活を強いられていた。尻の穴さえあれば、ホームズも悪い男ではなかったことに気づかされるくらいだった。

 近年、梅毒の横行しているロンドンでは、タン壺でさえ清潔で貴重な自慰道具なのだ。変態大国イギリス屈指の職人たちは、こぞって壺を造ったのだがこれがとぶように売れた。

 しかしワトソンの火掻き棒には無用だった。小さすぎた。壺のほうがだ。断じて火掻き棒が臨界に達してなお細すぎたからではない。

 したがって一番手軽な相手として、一度ははやまってハドソン夫人とことにおよんだ。

 しかしこれが唇を吸っただけで入れ歯が喉に詰まるという大惨事に終わり、欲望という名のスペルマは密室というミステリ最大の見せ場に突入することなく、窒息死をむかえた。ある意味難事件だった。

 それがどうだろう。今日は一転してハーレムだ。

 可憐な花のひとりはむっちりした中年男に変わってしまったが、一風変わった多肉植物と思えば、部屋の装飾品として許容できる。

「マイクロフトさん。弟さんたちが心配ですね」

 マイクロフトは弟のパイプをくゆらせた。吸い口を舌で何度もペロペロとなめる。

「そうでもないね。妹はまだ三人もいるしね」

 長女と次女と四女は疲れたのか、マイクロフトという肉の塊を間にして、長椅子の上で寝てしまっていた。

「サンドウィッチ……」

 ワトソンの目は殺意に濡れていた。

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