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「エリザベス……待ってくれ!」

 家を飛び出したホームズは、苦しそうに道端であえぐ妹を見つけた。

 妹は昔は元気だったのだが、自分に似て病弱になってしまったのだ。

 白い手を握れば、負けず劣らず白い目が四方八方から向けられた。ホームズは獄中から出たままのヒゲ面のハゲ茶瓶だったからである。

「いやっ。お兄ちゃん。いやっ」

 兄は手を離して、高い背筋を折り曲げた。

「ぞうさんごっこはもうしないよ」論点はそこではない。「もちろんお医者さんごっこもだ。コカインも獄中でやめたのだ。きれいさっぱり改心したのだ」

「そういうことじゃ……ないの」もっともである。「上のお兄ちゃんとのお医者さんごっこでは。さ、さ、注される側だったのよね」そういうことでもない。

「ベス。……それは」

「はっきり白状しろよ探偵さんよ」

 ヤジがとんできた。ロンドン市民が敵なのはデフォである。ホームズは蹴り飛ばした。アイテムどころか金貨も出なかった。攻略には絶え間ない忍耐が必要だ。

「おしりに注入されるなんて……痛くないの?」

 こぶしを唇に当ててうつむいた妹の、うなじの汗がきらりと光った。ホームズは生唾をまたのみ込んだ。

「その話はやめよう。テムズ側沿いの橋でも歩こう。お兄ちゃんが魚と芋の油ぞえを買ってやるから」

 フィッシュ&チップスはなんだかオシャレな食べ物から庶民の餌へと格下げされた。

「……はい」

 妹はやはり可愛いかった。


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