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 攻略キャラとしての三女のスペックは、残りの姉妹を足してもお釣りがくるほどだった。問題がないわけではなかったが。

「お兄ちゃん……今の話、ほんと?」

 はあはあと息をはずませ、汗を飛び散らせながら兄は振り返った。

 両手にはロイロット博士の火掻き棒――彼も実際は股間のそれをクロッカスで隠しながら退散したのだが――と同じ運命をたどった汚物が、二つの手に堂々と握られていた。

「ベス、エリザベス。愛しのエリー。それは誤解だ!」

「絶対うそよね。兄貴は昔からそっちの方面にだらしなかったもの」ジョーは耳まで真っ赤にしながら、直視できずに後ろを向いていた。「可愛いベスの枕元でぞうさんごっこして親父に半殺し。マイキーとはお医者さんごっこして注射器が手放せなくなったのよね……」

 三女はぱっと部屋から飛び出した。

「可愛い私たちのベス」長女はしくしくと泣き出した。

「ものすごく不憫よね」次女はおいおいと泣き出した。

「そうかしら。姉さんもなかなかのタマよ」四女は鼻で笑った。

「ベス! ベス……!」ホームズの声は悲痛だった。

「伸ばした手がわずかに届かない。その果てなき繰り返し」

 ワトソンがホームズの手を軸にしながら、一度曲げられた棒を回転させて気合いで元に戻した。「そういう意味だったのか」

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