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「お兄さま!」メグは兄に泣きついた。
「兄貴!」ジョーは兄を殴った。
「お兄ちゃん!」ベスは兄に微笑んだ。
「兄さん」エイミーは鼻で笑った。
「弟よ!」マイクロフトは十ポンド肥えていた。
全員になめるように抱きつかれ、ホームズは中心であえいだ。「やっ、やめっ。あ。いや」
「家族愛ね……」ハドソン夫人はワトソンの襟足で涙を拭いて階下にもどった。
「ひとり大きい人が尻を揉んでいるけど、あれは誰だっけ」ワトソンの健忘症は健在だった。「農場関係者かな」
「ワトソン! ワトソン君! 火掻き棒で助けたまえ」ホームズは手を振った。「ばか、そっちじゃない。本物の火掻き棒だ」
マイクロフトが少し考えて前をごそごそとやりだした。
「助けになるとは思えんが……妹たちに股間のパイプをくわえさせて捕まるくらい飢えていたなら、味見させてやらんことも……」
「自分こそホンモノと自負しているのか。やりますな、ホームズさん」
「ワトソン、頼む。対抗しようとして私の目の前で揺らすな」
「飛ばしっこでは負けませんぞ、ワトソン博士」
気持ち悪い、と四女がつぶやいたのがまずかった。興奮した二人の露出狂は顔を真っ赤にして、あえいだ。
「お、おおおお兄さん、エイミーさんを私の専属肉奴隷に」ワトソンはいいなおした。「私をエイミーさんの専属肉奴隷に」
火掻き棒の先っちょで合意の握手を交わした二人は、赤毛連盟の会長と副会長になる妄想にひたった。
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