09
名探偵は荷馬車に揺られてわりとすぐ帰ってきた。髭はぼうぼうだが頭の毛は前より薄い。壊れたヴァイオリンでドナドナを弾いている。
「強制収容所で三ヶ月も働かされたぞ。どうしてくれる。私の輝かしいキャリアを……」
「やあ名探偵。あっちの探索もしてもらったのか!」街の人間の目は相変わらず冷たかった。
「そっちの探索の罪で捕まったんだろ!」うひゃひゃと笑って指を指される。
「みろ。笑われてるのは君もだぞ、ワトソン」
「わかってないな。ホームズ」ワトソンはちっちっといった。
「君の恋愛偏差値の低さは驚くべきものだ。一年の依頼人が三百六十五人と仮定して、そのうち半分は女性だろう。誰ともどうにもなれないなんて、男しか相手にされてない証拠だ。今さら誰も驚かない」
ホームズは驚いた。偏差値などという難しい単語が、ワトソンの口から出たからではない。一年が三百六十五日であると、日付に弱いワトソンが知っていたからだ。
ワトソンはにやりと笑った。
「三百六十六日が四年に一回くることも最近の研究で理解した。偉いだろう!」
「偉い。偉いぞ」ホームズは空気を読んだ。「よし、このスコーンをやろう。で、妹たちはどうした」
「可愛い可愛い私のマドモアゼルたちも、部屋で君を待っているさ!」
「嫌な予感がするが、よし、入ろう」
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