07
三女のベスが一番おとなしかった。おずおずと髪の毛をいじりながら、視線はワトソンに向けたまま兄の後ろに隠れてしまう。
「あの……」
「目の前の変態は気にしなくてよろしい。カボチャくらいに思っておきなさい」ホームズは淡々といった。
「ズッキーニ……」
「その表現はいただけない。お兄ちゃんのズッキーニならいつでも見せてやるし味見くらいならさせてやるから、下を見るな」
可憐な栗毛は対象外、とワトソンは思った。しかし名前は悪くなかった。
「エリザベス」うっとりと口ひげの端をたるませる。「なんていい響きだ。それにエキゾチック。ホームズのハゲ茶瓶とは大違い」
「何か言ったか」
どちらかといえばつるっぱげに近かった。誰のせいかは明白である。伝記より地球半周ぶん思考回路が遅れた相棒のせいだ。
「通報。やっぱり通報だわ!」
「ズッキーニを食べさせるのですって」
「可愛いベスの上のおクチに? それとも下の」
キャーと黄色い悲鳴があがる。
妹など現実に持つものではない。可愛らしいのは見た目と声と、永遠の謎に包まれたスカートの膨らみだけである。そしてどれも兄弟では手が届かない領域だ。
「お兄ちゃん?」
小首を傾げる妹など幻想だ。わかっていても、ホームズはひしっと彼女を抱きしめた。これぞ我が理想の妹。
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