69



 魔方陣を描くには広い敷地が必要だった。

 ドイル家の部屋は子供用品と書斎と主人の趣味であるコスチューム部屋で埋まっており描けるスペースはない。

 ワトソン家に行くわけにはいかなかった。ジョンのメアリーに対する複雑な想いが足を向けさせないのだ。

 ドイル邸裏手の余った土地を使うことになり、一同はドイルの妻を先頭にゾロゾロと足並みを揃えた。

「ここならいいだろう」

「このチョークで」ジーンは妊婦にも関わらず腕まくりをして、やる気を見せた。「描きましょう。調子が出るの」

「おまえ……これは……」ドイルは不本意な出来事を思いだし、顔を曇らせた。

「こう言ってはなんだが、成功する気がしない」ワトソンが不安げに言った。

「奇遇だな。私もだ」

 ジョンがため息を吐いて持ってきた本を握りしめた。ワトソンに抱っこされたデニスが、ジョンの頬をつねった。

 ジョンは珍しく目尻をゆるめた。

[ 111/111 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]


×
- ナノ -