68



「僕は決して怪しい者では――あっ。ドイル嬢!」

「知り合いです」メアリーは集まってきた野次馬と教師たちを追い払うべく、毅然と立ち向かった。「彼は私の父方の遠い親戚で……」

「よくぞ言ってくれた。さあ放して。さっさと放して!」

 ホームズは威張りくさった。シャーロックよりタチが悪いわ、とメアリーは嘆いた。

 教師陣はなかなか立ち去ろうとしなかった。

「拳銃を持っていますぞ!」

「これは薬品? 硫酸や塩酸じゃないでしょうね」

「校内に入るおつもりなら事前に許可を取って――」

 メアリーはそのやり取りを目にするうちに、急に脱力感を覚えた。なぜ自分のところにホームズが来たのかもわからない。手元に持っている手紙は、おそらく実家からくすねたものだろう。あれで学校を割り出したに違いない。

 メアリーはあたふたしているホームズを尻目に、踵を返した。

「ごきげんよう。ホームズさん」

「き、君。待っ……!」

 メアリーは意図せずして探偵の地雷を踏んだ。

[ 110/111 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]


×
- ナノ -