67
学校に戻った長女のメアリーは、図書室の窓際に座っていたため――不審な人影に気づいていた。寄宿舎の門構えに背の高い男が一人。
本人は夕闇にまぎれて隠れているつもりのようだが、地面に落ちた影が丸見えだった。
「変質者かしら?」
「怖いわ。最近はぶっそうな世の中になったものね」
「目が鋭いしとっても背が高い」
メアリーは無視を決め込んだ。父親の助けになるような文献を探すのに忙しかったからである。
心当たりが無くもない。
「あっ。校内に入ったわよ」
「門衛は何をしているの。どう見ても父兄とは思えないわ」
――あの旅行着。
メアリーは顔を上げた。やはり、という思いで再度階下に目をやる。
ホームズだった。
[ 109/111 ]
[*prev] [next#]
[しおりを挟む]