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「……」ワトソンは書斎に戻ってからも悲しげだった。

「気を落とさないように」ジョンが気の毒そうにその肩を叩いた。「一筋縄ではいかない相手なのだ。それこそ教授のような人物でなければ、太刀打ちできぬほどの」

「モリアーティ教授をもう一度召喚したらどうかしら」

 ジーンはさらりと爆弾発言をした。彼女は周囲の男たちの反応に、え? え? と不安げになった。

「もともとお養母さまはワトソン博士と間違えて教授を呼び出してしまったのでしょう。今度こそハッキリと、教授の名前で教授として呼び掛けてみたら?」

「召喚するには叔父秘伝の魔方陣と儀式がいると教えてくれたのは君だぞ。この件に関して私を欺いていたマァムに頼るなど、私は御免だ!」

 ジーンは言いにくそうに口を濁した。ドイルは口調を改めた。

「すまない。板挟みになってツラかったのはお前のほうだろうに――」

「そんなことはどうでもいいの」

 ジーンは首を振って、ため息を吐いた。キングズリーがピンときて言った。

「母さん。何か隠しているね?」

「――」

 ジーンはためらったが、夫の優しく丸い目を見て白状した。「儀式のほとんどは私が代行していたんです。お養母さまは年々声も弱っておいでだし、頼りのアーサーも降霊術に没頭していたから……」

 室内の全員が顔を見合せた。

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