61
ジョンは髭をなでさすった。「……モリアーティ、」
「そうだ。君は彼に直接会ったことはないんだろう?」
ドイルは妻と息子にデニスを預け、ワトソンと三人で策を練った。
「列車の窓などから、それらしい人影なら見ました。教授の素顔を知っているのはホームズだけです」ジョンはいった。
「私たちも知っているだろう、ドイル君」
ドイルはワトソンの言葉に反論した。「彼はあのとき名前を偽っていたのだ。それにまだ滝の伝説がある!」
「何を言っているのか理解できません」ジョンは目をすがめた。「正直なところ、私もホームズ以上の現実主義者でしてね。作品の残りを仕上げて頂ければ、文句はないんです。私の担当している章が残っているので、失礼」
「……本当に君は私か?」ワトソンの髭はしょぼんと垂れた。
ジョンは振り返った。「教授を生き返らせることになんの意味があると言うんだ」
「まだ滝後の第一作目のホームズが書けていない。つじつま合わせは三人でやろうという話だったじゃないかね」
「とにかく私はおろさせてもらう」ジョンは踵を返した。
残されたドイルとワトソンは顔を見合せた。
[ 103/111 ]
[*prev] [next#]
[しおりを挟む]